08/05/24(土)
夜中の1時になんだか目が覚める。窓の外からは前の通りを走る車の音が頻繁に聞こえる。人の話し声も聞こえる。
ちょっと窓から外を覗いてみる。友達連れやカップルが家にでも向かっているのか足早に歩いているのが見える。金曜日の夜ということでみんな飲み遊んだ帰りなのだろう。
まちの中心のアルマス広場からふた区画のこの宿の周辺は20~30メートル置きに街灯が点いているから明るさは夕方過ぎと変わらない。
ベッドに戻りしばらくすると屋根をうつ雨音が聞こえてきた。
携帯のアラームの音で再び目を覚ます。6時になったらしい。もちろん外は真っ暗。夜中と変わらない。ただ、車の走る音や人の声はしない。
6時半過ぎに起き出し、出る準備をする。暖房は特についている様子はなかったのに部屋は十分暖かい。
そのおかげが昨日の雨で濡れた靴も靴下もほぼ乾いていた。
朝食用の部屋に行き、準備されていたカップにセイロンティのティーバッグを入れ、そこに電気式ポットのお湯を注ぎこむ。猫舌のぼくにはありがたいことにお湯はそれほど熱くなかったからすぐに飲むことができる。
カップの横には透明のビニール袋に入った小さな四角いパンと一口サイズのシフォンケーキがあって、これが朝食らしかった。
今は食べる気がしなかったので袋ごとポケットに入れる。
部屋に戻り、リュックを背負い部屋を出る。廊下や入り口に降りる階段の電気は自動でつくようになっているから宿主の見送りはない。床をきしませながら
勝手にドアを開け、宿を出た。
外はまったく人気がない。歩いてウシュアイア行きのバスを出しているバス会社のオフィスに行く。
気温は5度くらい。わりと暖かい。24時間開いているATMの前を通ったら中で座り込んでおしゃべりしているカップルがいた。そしてその奥には丸まって寝ている野良犬が一匹。あの犬はどうやって中に入ったのだろうなどと思いながら通りすぎる。
アルマス広場を左に曲がる。正面奥200メートルほどはマゼラン海峡。もっと北のまちであればすでに明るくなりはじめ、海峡も見えるのだろうがあいにくまったく見えない。
一区画海側に行った通りに目的のバス会社があるのだが、行ってみたらまだ開いていなかった。ゲゲゲっと思い、宿を早く出てきたことを後悔する。
昨日ここに来たときには、窓口のおじさんはバスは7時半発だが、7時にここに来るように言った。だから6時半過ぎでも開いているだろうと思ってきたのに。
雨がばらつき始める。近くのビルの軒先に座り込んで開くのを待つ。500メートルほど離れたところに工場があり、そこの稼動音が聞こえてくる。信号はパカパカと点滅していりだけで、まだ本格稼動していない。
20分ほど待ってようやくバス会社の入口のドアが開いた。
中に入ると昨日と同じおじさんがいた。身分証の提示を求められ、パスポートのコピーを見せるとそれを元にパソコンに情報を入力し、すぐにチケットを発券してくれる。
チケットとアルゼンチンの入国カードを受け取り、しばらく待合室で待つ。
7時過ぎ、窓口のおじさんに促され表に止まっていたバスに乗り込む。意外に客は多く、43人乗りのバスはほぼ満席。車体はたいして良くないが、テレビは薄型の液晶だった。
7時35分、バスは発車。昨日も通った道をとおる。海の方が少しずつ明るくなりはじめ、8時過ぎにようやく夜が明けた。
バスの中ではスペイン語オンリーの映画が始まる。
しばらくして乗務員のあんちゃんが、客にネッスルのチョコレート菓子と発砲スチロール製のカップ一杯のコーヒーを配る。コーヒーは缶コーヒー並みに甘い。
海沿いの道を外れるとあとは牧場らしい草地の間をひたすら走る。牧場の草は枯れて稲藁色になっていて、放牧されている家畜もいない。
そんな単調な景色が2時間半ほど続いた後、進行方向に海が見える。車窓からささやかな波が打ち寄せる浜が真横すぐ近くに見える。
バスはスピードを落とし、ゆっくりと海の中へと入る。ガタンという音ともに船体の内側が見え、バスごと船に乗ったことがわかる。なんともスムーズ。
すぐに船は浜を離れる。バスの右横には10トンはある巨大なトラックが乗りこんでくる。チロエ島に行ったときと同じように何人かがバスを降りる。ぼくも暑くて脱いでいた上着を羽織り、外に出る。船にはバスの他にどでかいトラックが4台ほどと乗用車が三台ほど載っていた。歩きなどの客はいない。
船の縁にあるデッキにあがり、あたりを見回す。雨は降っていないものの、雲が厚く薄暗い。風は強いけれども耐えられないほどではない。気温計で計った限りでは10度は越えている。
対岸には20分ほどで到着。こちら側に来ても景色は相変わらず草地ばかり。
海を渡り終えてすぐの10時半に、乗務員のあんちゃんが客に発砲スチロールのトレイにサランラップで覆いをしたサンドイッチを配る。あとカップ一杯の炭酸ジュースも。炭酸が苦手なぼくはゲゲゲっと思いながら、これも人生の試練だと言い聞かせ飲み干す。
それから10分ほどした頃、道が突然未舗装の砂利道になる。チリにも町外れに行けば未舗装の道はあったが、長距離バスの移動でこうした道をとおるのは初めて。
13時15分、国境地帯に到着。まずはチリの出国手続き。30分ほどで乗客全員がすんなりと終わる。
そこからバスに乗って15分ほどでアルゼンチン側に到着。こちらも質問も荷物チェックもなくすんなり通過。アルゼンチンはチリより一時間早いため、アルゼンチン入国はチリ時間の14時20分、アルゼンチン時間の15時20分頃となる。
14時45分、バスはターミナルに到着。みなバスを降りる。つられて降りてみるとリュックが荷台から降ろされていた。どうもここでバスを乗り換えるらしい。ついでに昼飯休憩になるのかと思い、聞いてみるとすぐにでると言う。
腹は特に減ってなかったが、昼休みなしで走るかなんて珍しい。もっとも運転手らはこれを機に変わったのだが。
ここリオグランデは、車窓から見た限りではけっこうでかいまちだった。まちはずれには鮭の大きなモニュメントがあり、台にBienvenido A RIOGRANDEと書かれている。
すぐに小さな川にかかる。その川には分厚い氷が浮いていて、いよいよ本格的に寒いところに入ることを感じさせる。
車窓から見えるのは、ただただ、枯れた放牧地ばかり。奥には雪をかぶった山々が見える。そしてときおり羊や牛が現れるが、その数は少ない。
17時頃には、暗くなってしまう。暖房が効いていているので、ボリビアのように車内で寒い思いをすることはない。しばし夕寝。
目が覚めると、窓の向こうが白っぽかった。窓に顔を近づけ、よく見てみるとあたりはすっかり雪。路面にも雪が積もっているし、道の両脇はすっかり白く覆われている。
くねくねしたゆるい坂道をバスは走っていき、しばらくすると、正面にまちの明かりが見えてきた。
下り道をおりると銀行などの店がちらほら見える。そして、海辺の道に出てターミナルらしき建物も何もない駐車場でバスは停まった。
時計を見ると、チリ時間の19時すぎ。アルゼンチン時間では20時過ぎだ。バスを降り、リュックを背負う。バスの周りには宿の客引きが数名。ヨーロピアンらしきバックパッカーには声をかけていたが、ぼくのところには誰も来ず。まぁ、いい。
地図を見て、ユースホステルの位置を確認し、歩き始める。海岸沿いから4本ほど奥の通りにあるようなのだが、そこに行くには坂道を上らねばならなかった。
車道は表面は濡れているものの凍ってはない。が、一方の歩道はきちんと除雪していないようで、雪が固まり、氷になっていた。
幸い車は少なかったので、雪道用の歩き方に変え車道を歩く。
1本奥に入るとそこがメインストリートだった。ここの歩道は狭いながらもきちんと除雪されている。もう20時だというのに、ここも店は開いていた。
通りはいかにも観光地らしく、ヨーロッパ的に街並みが統一され、それぞれの店の照明もむやみと明るくはない。パリジャーダと看板に書いている店では腹から半分に開かれた子豚が炭火にさらされているのが歩道から見える。ピザ屋やパスタ屋、喫茶店、チョコレート屋、防寒着屋、土産物屋などがずらりと並び、落ち着いた雰囲気の感じの良い本屋もあった。
プンタアレナスと同じように高校生ぐらいの子らがぞろぞろ固まっている地帯もあり、そこを通るときにはじろじろ見られる。
にぎやかなとおりは300mほどで、そこを過ぎると閑散としている。適当なところで右に曲がり、宿があるとおりに向かって坂をのぼる。リュックを背負っているから、つい踏ん張ってしまい、滑りそうになる。
宿のある通りの歩道は、雪が完全に凍っていた。このとおりはそこそこ車が通るから、歩道の氷の上をそろそろと歩く。
バスを降りてから20分ほどで、宿に到着。ロッジ風のユースホステルで外観がかっこいい。中に入ると受付にだれもいず。客らしいヨーロピアンが、ちょっと待っててと呼んできてくれる。
値段は会員割引で32ペソ(約1200円)。チリと同じく高い。シーズンオフでもっと安いかと期待していたが、外れた。
2階のドミトリーに案内される。裸電球1つの薄暗い部屋。暖房が異様に効いているから、汗が出てくる。
とりあえず荷物をおいて、アルゼンチンペソを入手するためまちに出る。さっき通った通りを歩き、ATMがありそうな銀行やFarmacia(薬局)を探す。さすがに土曜のこの時間なので、両替屋は軒並み閉まっていて、またFarmaciaはあったもののATMはなかった。
だいぶ端の方に銀行を見つけ、そこでカネをおろす。レストランはどこも高そうなので、開いていたパン屋で安いパン(100円くらい)を買い、宿の人が教えてくれたスーパーで山羊のものらしいチーズと360ml(約300円)くらいの赤ワイン(約100円)を買う。
宿に戻って、ネットをしていたら同宿のヨーロピアンがどこから来たのかと聞いてくる。彼ら(3人組だった)はフランスから来ていて、そのうち一人はル・ピュイから来たという。ぼくにどれくらい旅をしているのかと聞くから4か月目だというと、おおっと驚き、自分らはたったの2週間だと言う。
宿のフリーのネットは日本語不可。なので、写真のバックアップだけとる。
チーズは山羊の顔が包装に書かれていたものの、それほどくせがなく、牛のと変わりなかった。あるいは包装に書かれていたのは牛かもしれない。アルゼンチンは赤ワインがうまいというので、試しに買ってみたが、よくわからん。基本的に酒は飲まないから、こんなときだけ味見しても比較のしようがない。
部屋に行くと、ベッドの上に猫が寝ていた。完全に人慣れしていて、そばに行っても一向に動かない。しょうがないので、猫が乗っている毛布ごと空いている他のベッドに移し、そちらの毛布をこちらにもらう。
シャワーはきちんとお湯が出た。シャワールームで洗濯をし、ベッドの上に持参している細いロープを張って、そこに干す。室内では半袖で十分という暑さだから、洗濯するにはいい宿だ。
部屋からは上ってきた坂のお陰で湾がきれいに見える。
Fin
2 件のコメント:
http://ja.wikipedia.org/wiki/ウシュアイア
プンタアレナスからさらに南下して海を渡り、フエゴ島まで行ったんですね。この街の名前は失念しており、どこだろう?って思ってました。この時期だと、かなり昼の時間が短かったのでは?
kaw-kawさま
ウシュアイアはご指摘のとおり日中は短かったですね。朝の9時くらいに明るくなって、4時くらいには日が暮れるという感じです。もっとも昼間も曇っているので、昼なのか夕方なのかわからないような雰囲気ですが。
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