2008年6月29日日曜日

本:『インディアスの破壊についての簡潔な報告』

ラス•カサス(染田秀藤訳)『インディアスの破壊についての簡潔な報告』岩波文庫

18
「インディオたちは粗衣粗食に甘んじ、ほかの人びとのように財産を所有しておらず、また、所有しようとも思っていない。したがって、彼らが贅沢になったり、野心や欲望を抱いたりすることは決してない」

18-19
「彼らは明晰で物にとらわれない鋭い理解力を具え、あらゆる秀れた教えを理解し、守ることができる。ー略ー彼らは進行に関する事柄を知りはじめると、非常に熱心に、しかも、一層深くそれを知ろうとするし、教会の秘跡や神への信仰を実行しようとする。そのため、彼らの執拗な願いを受け入れるには、事実どうしても堅忍という特別な才能を神から授けられた聖職者たちが必要となるほどである。」

19-20
「スペイン人たちは、創造主によって前述の諸性質を授けられたこれらの従順な羊の群に出会うとすぐ、まるで何日もつづいた飢えのために猛り狂った狼や虎や獅子のようにその中へ突き進んで行った。この40年の間、また、今もなお、スペイン人たちはかつて人が見たことも読んだことも聞いたこともない種々様々な新しい残虐きわまりない手口を用いて、ひたすらインディオたちを斬り刻み、殺害し、苦しめ、拷問し、破滅へと追いやっている。例えば、われわれがはじめてエスパニョーラ島に上陸した時、島には約300万人のインディオが暮していたが、今では僅か200人ぐらいしか生き残っていないのである。」

21
「この40年間にキリスト教徒たちの暴虐的で極悪無ざんな所業のために男女、子供あわせて1200万人以上の人が残虐非道にも殺されたのはまったく確かなことである。それどころか、私は、1500万人以上のインディオが犠牲になったと言っても、事実間違いではないと思う。」

22
「キリスト教徒たちがそれほど多くの人びとをあやめ、破滅させることになったその原因はただひとつ、ひたすら彼らが黄金を手に入れるのを最終目的と考え、できる限り短時日で財を築こうとし、身分不相応な高い地位に就こうとしたことにある。ー略ー また、インディアスが余りにも豊饒で素晴らしい所であり、しかも、そこに暮している人びとが非常に謙虚で辛抱強く、彼らを隷属させるのがわけのないことであったからでもある」

39 サン•フアン島とジャマイカ島について
「1509年、スペイン人たちはサン・フアン島(プエルト・リコ)とジャマイカ島へ侵入したが(その2つの島はまるで実り豊かな果樹園のような所で、そこには巣に群がる蜂のように大勢の人がひしめきあって暮していた)、彼らの考えや目当てはエスパニョーラ島へ渡ったときと同じであった。」

43-44 キューバ島について
「この島に住んでいたインディオたちは、エスパニョーラ島のインディオたちと同じように、全員奴隷にされ、数々の災禍を蒙った。仲間たちがなす術なく死んだり、殺されたりするのを目にして、ほかのインディオたちは山へ逃げたり絶望の余りみずから首をくくって命を断ったりしはじめた。」

53 ニカラグワ地方について
「この地方の素晴らしさ、住民の健やかさと親切心、それに、多くの住民が、密集して暮しているその繁栄ぶりについて充分言いつくせる人はいないであろう。事実、この地方には驚くほど多くの村があった。それぞれの村は距離にして3、4レグワあり、そこには素晴らしい果樹がたくさん茂っており、そのために大勢の人が住むようになっていた。土地は平坦で広々としているため、インディオたちは山へ隠れることができなかった。また、生活が非常に楽しかったので、彼らは簡単にそこを離れられなかった。」

90 ユカタン王国について
「ユカタン王国はこのうえなく素晴らしい気候の土地で、そこには食物や果物がふんだんにあり、しかも、それはメキシコよりはるかに豊富であった。また、とくにこの王国では、これまでに知られているインディアスのどの地方より豊富な蜂蜜と蝋がが採れた。それゆえ、この王国には数限りない人びとが暮していた。」

149 ペルーの数々の広大な王国と地方について
「事実、その当時から今日にいたるまで、スペイン人たちは神父が計算した数の何千倍もの人びとを破滅へ追いやり、絶滅させた。ー略ー 今日にいたる10年の間に、彼らはこれらの王国に暮していた400万人以上のインディオを虐殺したのである(また、今日でも変ることなく殺戮は続けられている)。」

164
「インディアスが発見されてこのかた、どのインディオもキリスト教徒たちから悪事をはたらかれたり、強奪を受けたり、裏切られたりしない限り、彼らからキリスト教徒たちに害を加えたことは一度もなかった。インディオたちは、キリスト教徒たちの所業を見てはじめて、彼らがどのような人間で、何を望んでいるのかを知った。それまでは、彼らはキリスト教徒のことを不死身で、しかも、天から来た人だと思い、また、実際そのように彼らを歓迎していたのである。」

「スペイン人たちがインディアスに渡りはじめてから今日にいたるまでずっっと、彼らがインディオたちをまるで犬かその他の畜生のようにみなし、キリストの教えを説き弘めることに全然関心を示さず、それどころか、聖職者たちに多くの苦しみと迫害を加えて彼らの主な目的である不況を妨害していた」

読んでいてため息が出る本。よくもここまで殺したものだとうんざりする。ラスカサスは1500万人以上のアメリカ大陸の人びとが殺されたという。拙い鉄砲といくつかの武器があっただけだろうに、ここまで殺せるとは狂気の沙汰だ。どっかの論文か何かに当時のスペイン人が特に残虐であったわけではなく、我々と変わりのない普通の人であったというような視点を持ってみることが大切だと書いてあるのがあったが、これだけのことを見せつけられると少なくとも同じような感覚を持っていた人間だとは言えないだろう。

当時の感覚では普通であったというのなら、それもまたすごいことだ。しかし、一方でラスカサスのような人たちがいるわけであるから、やはり一部だろうが、狂った人たちがアメリカ大陸に多く渡ってきたと考えるべきではないか。

ラスカサスに望むのは、もう少し当時のインディオたちの暮らしを描いてほしかったということ。時折、引用したような記述が見られる。

『逝きし世の面影』とあわせて読むと、やはりそこにも一つの文明があり、価値観があり、充足した社会があったのだろうと思える。そして、それは徹底的に破壊され、亡くなってしまったと思うと、なんとも残念である。

もし、コロンブスが発見しなければ、あるいはスペイン人が殺し続けることなく、共存していればどんな世界ができていたのだろうか、と思ってしまう。

08/06/14
サンタクルスにて

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ふうさん、アンネのバラ友です。

「インディアスの破壊にについての簡単な報告」を読みました。

「黄金のために」これほどの殺戮が行われ続けたとは、はずかしながら知りませんでした。

話変わって、今世界でグローバル化=アメリカ化の世界経済の中で、原油や穀物価格の高騰のなかで、新たな格差・貧困が途上国だけではなく「先進国」でも進行していますね。

ローカルに徹した「もう一つの生き方」を
求める新たな民衆連帯の輪の広がりこそが、
期待されますね。

ぶらぷらびと さんのコメント...

アンネのバラ友さま
コメントありがとうございます。ぼくもこれを読むまではこれほどまでとは思っていませんでした。もっとも数字に関してはどの程度信用できるものかはわかりませんが、ともあれ500年前にアメリカ大陸のほとんどの地域はすっかり変わってしまったのだということは確かでしょう。これだけの広大な地域がと思うと、なかなか想像しにくいですが。