08/04/22
・月の砂漠
・砂漠ときどきまち
バスでの移動だったが、すっかり熟睡。目が覚めたが、外も車内も暗い。バスは明るいうちには冷房をつけていたのだが、深夜走っている間はつけてなかったようで、今は寒くもなく暑くもなくちょうどいい。
窓に顔を近づけ外の様子を伺うが、沿道には外灯がないため何も見えない。見えるのはまん丸な月とそのわずかな光に照らされ浮き上がっている山の形だけ。山と言うには小さいから丘と言った方が適当かもしれない。
その外形は昨日見たような草も生えていない山々と比べるとやわらかく丸みを帯びている。昨日とはまた違う地形のところを走っているのかもしれないと思いながら、また少し眠ることにする。
30分もすると外が白み始めた。さっき気になった外の様子を見てみようと、窓を覗くとそこは一面の砂漠だった。左手の窓から見ても同じ景色。バスは砂漠の中に敷かれた一本のアスファルトの道を走っているのだった。
月がだんだん光度を失い白くなっていく。太陽が徐々に昇ってきているのはわかるが、朝靄(もや)のおかげで、なかなか視界は拓けない。アンデスの上、雲の中を走っているのと同じように。
30分ほどしてバスは左に曲がる。すると突然に緑が現れ、民家が見えてくる。
あまりに突然人が住んでる地帯に入ったので、ほぉー、と感心してしまう。やがてサトウキビらしい畑が見え、バナナや椰子も見えてくる。カボチャやトウモロコシの畑も見える。家はどれもコンクリートの四角い家。
集落を抜けるとまたバスは砂漠の中を走る。
7時過ぎ、わりと大きなまちに入る。沿道に市場があり、すでに開店の準備が始まっている。屋台ではハンバーガーらしきものを売っていて、それを食べている人も。制服をきた子どもたちも見える。
8時、添乗員のアナウンスが流れ、ブランケットが回収される。夜中は切られていた冷房がまたつけられたようで、冷えてくる。それから飲み物が配られる。発泡スチロールのカップに飲み物を入れて添乗員が前から順に客に配って歩く。カフェ オ テと聞かれ、反射的にテを頼む。色からして紅茶かと思ったが、違った。あまり飲んだことのない味。これがマテ茶か?
それからハムを挟んだ小さなハンバーガーが配られ、その後発泡スチロールのトレイに紙パックのオレンジジュースとあめ玉2個、ケーキ菓子一個がパックされたものが配られる。昨晩のご飯もアリ、豪華な朝飯を期待したが、外れだった。
バスは坂道を登り始めたところで止まる。あたりはまたもや靄がかかっていて先が見えない。しばらくして動き出す。バスは反対車線に何かを避けるようにはいる。脇を通りすぎるときに、窓から見ると警察がいてその横には横転したトレーラーがあった。片道一車線の道だから狭くはないが、曲がりくねっており、この靄だから見通しは極めて悪い。ちょうどカーブのところに倒れているので、急ハンドルか何かで倒れたのだろうか。
バスはゆっくりと高度を上げていく。路肩にはガードレールはあるものの、そのすぐ外は砂の断崖絶壁。覗き込んでみると、絶壁に平行するように、あたりよりもっと白いくねくねしたラインが見える。何かと思ってよく見てみると、打ち寄せる波だった。どうもこの下は海らしい。それにしても砂壁に打ち寄せる波とは。そんなものがペルーで見られるとは思ってなかった。
これから何年も波に砂がさらわれていったら、数年後、この道はあるのだろうか、などと思う。
相変わらずあたりは真っ白で100mほどしか先が見えない。雲の中にいるわけでもないのに、どういうことだ?
9時過ぎ、家が立ち並び、沿道に様々な店が並ぶまち出る。どの建物も簡素でぼろい。たまにきれいな建物があるとそれはだいたいホテルだったりする。
みんな半袖だから外は暑いのだろう。車内はいよいよ冷房がきつくなり、上着を着ずには寒いくらいになる。
さっきまでよりも見通しは良くなったものの奥の方はまだまだ霞んでいて見えない。
道路は片道三車線になり、バスは客を乗せた三輪バイクや乗り合いタクシーを追い抜いていく。草も生えていない山の斜面にも家は張り付いている。ゴミが切れることなく落ちていて黒いビニール袋に犬が鼻を寄せ臭いを嗅いでいる。
砂埃にすすけたような雰囲気の大通りをバスは走る。
通りの向こうは木も草も生えてない黄土色の小山が並ぶ。
やがてコレクティボ(乗り合いワゴンバス)など車の量が増え、街角に立つ人の数も増える。そして建物の背が高くなる。
どうやらリマに入ったらしい。道路名が書かれてある看板を探し、手元の地図で現在地を探す。工場らしき建物などの横を通り、しばらくしてヨーロッパ調の街並みの中に入る。宮殿や教会のような建物が並び、路上にはキオスクが立っている。屋台はほとんどない。
道路は渋滞していて、バスも止まっては走り出し、また停まっては走り出しを繰り返す。
バスはのろのろとヨーロッパ調の建築が並ぶ通りを抜け、また広い幹線道路に出る。そして、左に右に曲がってバスターミナルに着く。
時刻は10時40分。昨晩19時にピウラを出てから約16時間の移動だった。
バスターミナルの建物は立派だった。例のごとく、この会社だけのターミナル。バスから降りる。荷物は会社の人がバスから降ろし、到着場で荷物の認識番号が書かれてある半券を確認しながら客に戻す。
到着場にはピウラと同じように首から身分証をぶら下げたタクシーの運転手が数人いて、客引きをしている。そのうちの一人が話しかけてくる。ホテルの名前を告げると場所を知っていると言い、値段を聞くと10ソーレス(約400円)だと言う。中心部まではタクシーでも20分以上かかるから、けっこう安い。昨日のピウラのタクシーのにいちゃんとは大違いだ。
その程度の金額ならとタクシーに乗る。運転手のおじさんはあれこれ話しかけてくる。ペルーは初めてか、どれくらいいるつもりだ、ペルーではどこに行くのだ、など。
走り出して5分ほどすると車の部品街のようなところに入る。TOYOTAやHONDA,MITSUBISHIなど自動車メーカーの名前やマークがずらりと書かれていて、道路脇で修理らしきことをしている人もいる。
その通りに来たときに運転手のおじさんが、ぼくに前に抱えていたウエストバッグを足下に置くように言う。そして、この辺りは"Zona peligrosa(危険な地帯)"だと言う。ぼくが足下にバッグをおくと”Mejor(メホール:better 良い)"と言ってうなづく。そして、リマの中心部ではよく気を付けるように言う。
中心部に近づくほどに渋滞が激しくなる。危険だと言いながら車の窓は開いたまま。窓を閉めると暑いからだろうが、ちょっとちぐはぐ。まぁ、その程度の危険ということなのだろう。
交差点で停まったときに、右横に停まったタクシーの運転手がこちらの運転手に大声で道を聞いてくる。運転手のおじさんはすらすらと答える。
宿はヨーロッパ調の街並みが残るセントロ(旧市街)にある。一方通行の石畳の道に入ると宿はすぐだった。
宿に着いたのは11時過ぎ。でかい気の扉を入ると、そこにガラスのドアがあり、張り紙がしてあった。張り紙には英語でここに荷物を置くと表から取られる場合があるから置かないようにと書いている。
ガラスのドアを入ると右手が受け付け。13ソーレス(約500円)のドミトリーを頼む。安宿ではあるが、建物はすごい。すべて石造りで3階くらいまで吹き抜けになっており、廊下にはミケランジェロの石膏が何体かある。さらに壁には数十年前のリマのまちの写真がかけられてる。
ドミトリーは4人部屋。2段ベッドではなく、普通のベッドが4隅にそれぞれ置かれている。部屋はぼくの他にヨーロピアンらしい若い男が一人。
部屋にロッカーがないのがよろしくないが、しょうがない。部屋の扉には鍵があるものの、壊れていてあまり使いものにならない。鍵がちゃんとしている別の部屋に移りたいと言うと、鍵を直すように言うからと受付の人は言う。が、当然(?)、滞在中に修理などはされなかった。
荷物を置き、まずは両替をするため辺りに銀行を探す。銀行の近くには10人くらい両替商の人がいて、札束と計算機代わりの携帯電話を持って立っている。そして、ぼくのような人間が通ると"Dollares(ドーラレス:米ドルのこと)"と言って両替しないか声をかけてくる。
偽札の問題があるので、銀行で両替をする。レートは1米ドル=2.75。
それから宿の近くの6畳もない小さな食堂で食事。スープやジュースがついたセットが6ソーレス(約300円)だった。食堂の前では焼き豚のハンバーガーが売られていた。売り方はハバナなどと同じく豚の巨大な肉の塊がどかんと置かれていて、そこからスライスした肉をパンに挟む。肉の他にレタスやトマトも入り、最後に塩や好みでアヒ(サルサソース)がかけられる。これは1ソル。
それからミラフローレス地区にあるブラジル大使館を探しに行く。宿の近くのAvancay通りのバス乗り場でミラフローレス行きを探すが、バスはいくらでも通るもののなかなか乗りたいバスがこない。
バス乗り場には各バスの到着時間が何かをチェックしている人がいて、その人にミラフローレス行きのバスを聞くと、9番のバスだという。
それで9番のバスを探すのだが、これがまたわかりにくい。バスのフロントには、そのバスが通る通り名と番号が書かれてあるのだが、番号は左端や右端など3カ所くらいに書かれており、そのうちのどの番号を見ればいいのかがわからない。
しょうがないので、9が見えたバスの客引きの人にいちいち聞くが、違うという。結局50台近く見送っただろうか、30分ほど待ってやっと乗るべきバスに乗れた。
料金は客引きの人が徴収に来るようで、乗るときには払う必要はなかった。そのうち客引き担当の人が回ってきて料金を徴収し、その代わりに切符みたいなものをくれる。運賃は一律1ソル。
バスは渋滞+客を乗せるために頻繁に停まる。自転車があれば5分もかからないところを20分くらいかけて走る。車道ではバス同士が道の取り合いをする。プップーと盛んにクラクションがなり、車線の変更時などは無理だろうというような隙間でも強引に入り込む。しかし、ぶつかることはない。
彼らの運転(女性の運転手は一人も見なかった)は、言ってしまえば間を詰め合う喧嘩のようなもので、一瞬でも隙ができれば、相手の顔色など気にせず突っ込んでいく。客引き担当の人が、ドアから身を乗り出し、そこに入りたいからちょっと待ってくれと大きな身振りで相手方の車に知らせるが、半分くらいは無視されているよう。
とにかく進むのが遅い。考えごとをしていたら目安にしていた2 de Mayo通りの看板が見えた。慌てて降りる。
地図を見ながらブラジル大使館を探すが、ない。それに2 de Mayo通りの隣の通りの名前が地図と違う。交通整理をしていた警官に聞くと、あっちだというようなことを言う。それでそっちの方に行くがそれらしきものがない。一帯は高級住宅街のようで、立派な家が立ち並び、警備員までいるところもある。
警備員の人に聞くと、自信満々にあっちだと言う。が、やはり見あたらない。
さまよいながらだんだんとわかってきた。どうも2 de Mayo通りが2つあるようだ。
ここらの住人らしいヨーロッパ系のおじさんに聞くと、ここからはだいぶ遠いから、コレクティボに乗って行った方がいいと言われる。それでさっきバスを降りたところに戻る。地図で確認するとやはり2 de Mayo通りが2つあった。どちらも同じ方向に走っているので完全に間違えたようだ。
ブラジル大使館近くの2 de Mayo通りはまだまだ先にあった。それならそうとあの警官も教えてくれればいいのに、自信ありげにあっちだなんて言うから、1時間もさまよってしまった。
再度、バスに乗りミラフローレスに向かう。ここは富裕層向けの店が立ち並ぶ地区で大使館なども多い。行ってみるとまるでセントロと雰囲気が違う。
バスを降りたところからしばらく歩いてやっと大使館に到着。表の窓口でビザのことを聞くと英語で書かれた一枚の紙をくれた。そこには次のように書かれていた。
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EMBASSY OF BRAZIL IN LIMA
Consular Section
Requirements to obtain a tourist visa(ツーリストビザを受給するには以下のものが必要):
1.Passport,valid for a minimum of six months from the date of intended arrival in Brazil(ブラジル入国時に有効期間が最低6ヶ月あるパスポート);
2.One visa application form(provided by this Consulate) for each applicant, duly filled out and signed by the passport holder(ここの領事館で受け取ったビザの申請書1枚。申請書はパスポートの所持者によって正確に記入され、また本人のサインがあること);
3.One passport size photograph (3×4) recently taken, in color or black and white(最近撮ったパスポートサイズの写真1枚。写真はカラーか白黒);
4.Round-trip ticket(ブラジル往復チケット);
5.International Certificate of vaccination against yellow fever(黄熱病の予防接種証明書:通称イエローカード).
6.Credit cards,traveler's checks or other proof of financial capability(クレジットカードやトラベラーズチェック、その他所持金(預金)額を証明するもの:銀行の残高証明書など);
7.If student, certificate of enrolment in a regular high-level or techinical course(学生であれば在学証明書):
8.Other documents, as demanded by Consular Officer(その他、領事館の職員に求められた書類).
The process takes between two and five business days(ビザの発給には開館日換算:つまりは土日は計算に入れずに2~5日かかる)
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いずれも事前に聞いていたものばかり。一番のネックは4番目の往復チケット。飛行機で行くつもりはないから、ない。チケットがないとダメかと聞くと、首を横に振りながらダメだと言う。
今日はもうビザの申請時間は終わっていたので、これだけで大使館を後にする。予想通りの展開。ボリビアでとるしかないかと考えながら、ぶらぶら歩く。
ミラフローレスの中心部には、マクドナルドはもちろんのこと、セントロでは見なかったスターバックスコーヒーなど、まぁどこにでもあるつまらない店がたくさんある。民族服を来ている人などは、まず見あたらない。そして、観光客が多い。
中央公園では屋外写真展をやっていた。どれも上空から撮った写真らしい。アマゾンの森林破壊の現場や遺跡、大都市、自然の写真など世界各地の写真が公園内の歩道に展示されていた。
ぷらぷら歩く。セントロに近いところでバスに乗ろうと歩いてると、市場を発見。夕方ということでもう店じまいをしているところが多かったが、エクアドルでは見なかった果物等を見る。
市場近くの客が多く入っている店で食事をして宿に帰る。
帰るときもバスに乗るのに一苦労。行きたい方面に行くバスの乗り場がわからず、聞いてはそこに行き、違っていてはまた別のところに行きとやはり1時間近くさまよいようやくバスをゲット。
辺りは薄暗くなりはじめていた。来たときとはまったく違うルートのバスだったようで、見た覚えの景色の通りを通る。バスの中はすし詰め状態で、ほとんど隙間がない。只でさえスリに合わないか気を使うのに、バスは急ブレーキ急発進で大揺れ。やれやれ。
渋滞の中を40分ほどかけて宿の近くの通りに戻る。そこでは降りる人が他にいなかったため、”Permiso(ペルミソ:すいません)"と言いながら、人をかきわけかきわけ、やっとのことで降りる。
暗くはなっているものの通りには人が多い。トウキビやアイスの物売りの人たちもまだがんばっている。
ぼくは寄り道せずに宿に戻る。夜は外にでることなく、宿で過ごす。
朝、部屋にいた男は去って、別のおじさんとアメリカ人の女の子2人組と同室になる。会話はない。
宿に併設されているネット屋でネットを見る。ここのはかなり遅かった。
Fin
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